« 「夜はいかに継ぐるよ」~万葉古代演歌 | トップページ | 実はとっくに解読されている万葉集最難読歌「莫囂圓隣」 »

傑作表記!「馬声蜂音石花蜘蟵荒鹿」

李寧煕氏の万葉集解読の中でもとりわけ見事と言っていいのがこれです。

いや、本当に見事なのは元の歌の方なのでしょうけど。

巻12の2991番の作者不詳歌

垂乳根之母我養蚕乃眉隠馬声蜂音石花蜘
荒鹿異母二不相而

従来訓
「たらちねの ははがかうこの まよごもり いぶせくもあるか いもにあわずして」

大意
「母が飼っている蚕(かいこ)が マユにこもるように、心持が晴れないことである。妹に逢う折がなくて。」(日本古典文学大系)

「馬声」は「い」、「蜂音」は「ぶ」と、擬声語として無理やり読んでいるのですが、そうやってやっと出てきた解釈というのが、ずらずらと虫や動物の名前を並べた表記と何の関連性もありません。

李寧煕氏の解読は次のようです。

垂乳根之 (タラジョッネジ) 垂れまらを出そう
母我養蚕乃
(バガヤヌエネ) はめ込み臥せよう
眉隠馬声
(ミウンマソ) 憎んでは下さるな

蜂音
(ボソ) ちょっとあなた
石花蜘蟵
(イシゴジジョッ) たてつづけまらが
荒鹿 (ゴチロ) 手荒いので
異母(イメ) このほとが
不相而
(ブサンイ) 可哀そう

何と男女の会話体になっているのです。

以下、李寧煕氏の「枕詞の秘密」第一部第二章からそのまま引用させていただきます。

 「さて、この歌の最難訓部分であり、かつ傑作表記でもある「馬声蜂音石花蜘蟵」。
 
 馬の声、蜂の音、石花(韓国語で海の「かき」のこと)、蜘蟵(「くも」のこと)、荒ぶる鹿など動物名をずらりと並べていったい何を詠んでいるのでしょう。前に挙げている蚕まであわせると、この歌には全部で六種類もの動物が登場します。しかも全部強壮剤、強壮食品として名高い、またはセックスに強い動物ばかり。
馬はもちろんのこと、女王蜂や女郎蜘蛛(ぐも)は雌対雄が一対うん十、うん百のセックスの女王たち。それにローヤル・ゼリー、鹿茸(ろくじょう)、牡蠣(かき)、蚕のさなぎにいたるまで強壮剤・強壮食品ばかり(韓国では今でも蒸した蚕のさなぎをよく食べます)です。

 この文字の使いようでよく分かるとおり、作者は激しい性愛行為を描写しているのです。

 (中略)

 「蜂音」。これは「ボソ」、「ちょっと、あなた」という呼びかけのことばです。直訳すると「見て下さい」。今でも使われていることばで、夫婦の間でよく交換されます。現代風になおせば、「ボセヨ」、「ヨボ」など。韓国語をお習いの方はよくご存知のことばです。」

 (引用ここまで)

詳しくは「枕詞の秘密」を見ていただくとして、漢字の表記と歌の内容とが見事に一体となっていますね。また「石花」が貝の「かき」であることは普通の韓日辞典に載っています。

この李寧煕氏の解読と従来の解読を比べてみて、それでも李寧煕説が100パーセントデタラメだ、コジツケだと言う人は、言葉の理解力が欠如しているのでしょうから、万葉集についてあれこれ言うのはやめた方がいいでしょう。

それにしても、この歌を解読した人はどうにもこうにも読めなくて、馬のいななき(イイーン?)、蜂の飛ぶ音(ブーン)まで持ち出して、何とかかろうじて意味のある歌を搾り出したのですから、それはそれで賞賛に値するかもしれません。

にほんブログ村 本ブログ 古典文学へ

参考ウェブページ(青空文庫)

橋本進吉

「駒のいななき」

追記

「馬声」とか「蜂音」で検索するとこの記事が上位に表示されて、ありがたいことです。

一日も早く「いぶせくもあるか」などというバカバカしい解読に替わって、本当の意味が広まって行くことを願っています。

|

« 「夜はいかに継ぐるよ」~万葉古代演歌 | トップページ | 実はとっくに解読されている万葉集最難読歌「莫囂圓隣」 »

もう一つの万葉集(解読)」カテゴリの記事

コメント

「いぶせくもあるかな」と「バカバカしい」解読しているのは、古今集のかな序にもこの歌が掲載されているように、少なくとも、古今集の時代からなのです。
つまり、この時代にすでに、読めなくなっているということでしょう。古代韓国語が、確かに汎用されていた時代から、万葉仮名が生み出され、それに伴って、古代日本語への歩みがあった中で、こうした「バカバカしい」解読もあったと考えます。

投稿: くえん | 2017年2月 3日 (金) 18時48分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1436070/38155677

この記事へのトラックバック一覧です: 傑作表記!「馬声蜂音石花蜘蟵荒鹿」:

« 「夜はいかに継ぐるよ」~万葉古代演歌 | トップページ | 実はとっくに解読されている万葉集最難読歌「莫囂圓隣」 »